問い:大統領と首相はどっちが権力を持っているか?
このポピュラーな問いに答えるのは、実は難しい。
ノーベル賞受賞などアメリカ合衆国大統領の活躍をニュースで見聞きするのに、日本の総理大臣は隠然たる力を持つ与党幹事長に振り回されていて、なんとなく頼りない気がする。
でも、オバマが医療保険改革に苦労しているように、現実にはアメリカの大統領も絶対的な王様ではない。いや、むしろ、日本の首相よりも権力を持っていないかもしれないのである。
民主主義の大事な柱として「三権分立」という言葉を中学校くらいで習う。法律を作る立法権・法律を適用する司法権・それら以外の国家作用を担う行政権が3つの権力である。
アメリカでは、権力の集中は独裁を生み、良くないものだと考えられていて、「三権分立」がなされている。大統領と議会には、権力の融合はない。すなわち、行政権の担い手である大統領も立法権を担う議会議員も、国民がそれぞれ直接に選ぶ。大統領は議会を解散できないし、議会は大統領を選ぶわけでもないので大統領を解任することも出来ないのである*1。
議会は民主党と共和党の二大政党が牛耳っているが、議会多数派の政党と大統領の政党が異なる可能性がある(この状態を分割政府という)。たとえ分割政府でも、大統領は議会の多数派を変えようと議会を解散することはできないし、議会は大統領を選び直せない。権力の分立のために、大統領の行いたい政策が議会によって阻まれるのである。
日本では、国民によって選ばれた国会議員が首相を選び、首相は衆院を解散できる。首相と議会は融合的な権力関係なのである。そのため、議会多数派と首相の政党が不一致はおこりにくい*2。首相と議会多数派が一致するために、首相の政策は議会に拒否されることは少ないと考えられる。
このように、日本の首相は大統領のように議会に抵抗されず、より権力を持っていると考えられる。
しかし、印象は、弱い首相であった。
この印象は、何も理由のないことではない。政党の規律という視点が説明してくれる。規律というのは、議員が党によってコントロールされるということである。
日本では、自民党政権時代、中選挙区制という3~5名の当選者を出す選挙システムであった。自民党は、複数名の当選者を出す必要があった。候補者は、自民党という政党カンバンだけでは他の自民党候補と重なるために、候補者個人をアピールする必要があった。自民党候補者は個人後援会を作って集票を目指し、自民党中央地方組織への依存は少なかった。そのために、自民党議員は、党の意向に従属的になる必要がなかったのである。つまり、自民党の総裁=首相が、ある政策を追求しようとしても、規律が弱いために、議会へのコントロールができなかったのである。その結果、派閥や族議員の抵抗が生じ、首相は弱かったのである*3。
弱い首相を強くしようというのが、小選挙区並立制導入などの政治改革であった。この制度改革によって、選挙の公認権と政党助成金というカネを支配することで、党の規律が強化された。このような制度的に強くなれる資源の上昇と本人のキャラクターによって、強い首相という印象を与えたのが、小泉純一郎であった。
民主党政権になったが、鳩山総理には小泉のように強いという印象がない。これは、鳩山総理が小泉型のトップダウンの意思決定ではなく、コンセンサス重視の政治スタイルであるというのが原因であろう。強くなることが出来ても、本人の意思次第で、合意型の政権運営にもなり得るのである*4。
さて、問いに戻る。大統領制の例としてアメリカ、議院内閣制の例として日本を挙げた。しかし、大統領制を採る国が全てアメリカ型かというとそうではない。議会と大統領の権力関係が融合されていたり、アメリカの大統領にはない、議会に対して法案の提出する権利を持つ大統領がいるなど、アメリカ型よりも議会の抵抗を排除できる強い大統領がいる。議院内閣制も、日本のように政権与党が巨大な第一党と小さい政党によって構成されれば、首相は強くなり得るが、複数連立与党でかつ政党間で絶えず主導権争いを余儀なくされる状況になれば、首相は弱くなりうる。また、政党の規律が低ければ、首相の指導力は発揮できず、首相は弱くなる。
つまり、問いの答えは、大統領と首相を比べた場合、一概にはどちらが権力を持っているかはわからないということである。
なお、権力とは何か、という問いはここでは言及しなかった。
*1犯罪を犯したときに開かれる弾劾裁判を除く
*2首相は、最終的には衆院の指名によって選ばれるので、参院の多数派と首相の政党が異なる分割政府は起こり得る。
*3中曽根康弘は強い首相であったする見方があるが、ここでは言及しない
*4しかし、民主党幹事長である小沢一郎が、党の規律権を握っているような印象もある。
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