2010年3月16日火曜日

選挙制度と政党制

問い:選挙制度と政党制の関係について述べよ

まず、それぞれの意味するところを述べる。そして、両者の関係を理論的に論じ、日本を事例にして検証する。

選挙制度は、定数の大小、代表の仕方、投票の方法によって分けることができる。第一に、定数で分類すると、一つの選挙区から一人を選ぶ小選挙区制と複数人を選ぶ大選挙区制に分けられる。第二に、代表の仕方で分類すると、定数内で多数の得票をした候補者が順に当選する多数代表制と定数の範囲内で得られた票の比率に応じて議席を配分する比例代表制がある。さらに、多数代表制は、小選挙区制において過半数の得票を必要とする絶対多数代表制と相対的に最大の得票を得れば良いという相対多数代表制に分けられる。第三に、投票の仕方であるが、候補者名を書くか政党名を書くかという分類がある。さらに、候補者名ならば、何名の候補者を書くかという分類が出来る。定数と同じだけ候補者名を書く完全連記制や、複数の定数であるが一名しか名前だけの名前を書く単記制がある。

次に、政党制について述べる。政党制とは、政党の相互的な関係性を意味するものである。具体的には、政党の数や政党の大きさ、さらには政党間の政策空間での立ち位置の違いなどによって分類できる。サルトーリは、以下のような分類を示している。第一に、競争的な複数政党があるものの一党が政権を支配し、その状態が有権者や野党にも受け入れられている一党優位体制が挙げられる。第二に、競争的な二つの政党が、政権交代を繰り返す二大政党制が挙げられる。第三は、3つ以上の政党が存在し、複数の政党が連立して政権を形成する傾向のある多党制がある。さらに、多党制は、政党間の政策の差異が極端でなく、政権が安定化しやすい穏健な多党制と政党間の政策が極端に異なり、政党数も穏健な多党制と比べて多い傾向にあって、政権が不安定化しやすい分極的な政党制が挙げられる。

選挙制度と政党制の関係について述べる。まず、定数が候補者数に影響するという指摘がある。S・リードが提示した候補者数がM(定数)+1になるという見方がある。リードの議論は候補者数が焦点であるが、政党の数は、候補者数によって影響されうる。次に、代表制の観点ではデュベルジェが論じたように多数代表である小選挙区においては政党数が2になり、比例代表制では多党制になるという法則が指摘されている。さらに、投票の方法を考えると、単記制では同じ政党に属する候補者に一票しか入れられないが、連記制では定数と同じだけ政党に票を与えることが出来る。そのため、単記制であれば、多党化や候補者個人のラベルが重視されるために各政党の規律が弱まる傾向が指摘できる。逆に、連記制であれば、政党がまとまって集票できる結果、政党の数が少なくなる可能性を指摘できる。

戦後の日本の選挙制度は、衆議院選挙では中選挙区制だった。中選挙区制は、ひとつの選挙区から3~5名の当選者を出すシステムである。M+1ルールに基づくと最大で6の政党が勢力を持ちうるが、自民・社会・民社・公明・共産の5政党に、新自由クラブや他の革新系の政党が存在したことは、M+1の法則と政党の数の関係を示唆するものだと考えられる。
中選挙区制では、議会過半数を獲得するため、自民党は一つの選挙区に複数名を立てなければならなかった。しかも、有権者は一人の候補者の名前しか書けない単記制であった。そのために、候補者は党ではなく個人で集票しなくてならなくなり、派閥や族議員が生まれ、自民党は中央集権の政党ではなく、分極的な政党になった。
中選挙区制には、党ラベルや政策ではなく個人が集票の鍵となるため、利益誘導が生まれたという批判があった。このような批判的な見方を背景に、90年代初頭に導入されたのが小選挙区比例代表並立制であった。小選挙区制の導入には、政党同士が政策を競い合う二大政党制を実現しようという狙いがあった。選挙制度が政党制を導くという政治工学的な見方があったのである。
民主党による政権交代の背景として小選挙区制が挙げられる。たしかに、現在では、自民・民主の議席割合は高いが、衆院では公明党、共産党、社民党という有力な第3第4第5の政党が存在した。この状況については、小選挙区だけでなく比例代表性が並立されたことの効果や、政党の集票を担う地方議員が小選挙区ではなく中選挙区で選ばれることの効果が、小選挙区がもたらす二大政党制への効果を阻害しているという指摘ができる。さらに、自民党議員が党ではなく個人を基礎とする集票システムであったために、所属する政党が流動的になっても当選を続けられ、政党ラベルを必要としかなかった。そのために、二大政党へのインセンティブが低く、政党システムの収斂がおきにくかったとも考えられる。

以上のように、選挙制度と政党システムは因果関係を持ちうる。しかし、日本の事例で考えたように、選挙制度以外の文脈にも政党システムは影響される。

3 件のコメント:

  1. 現在、テスト勉強で政治について調べていたところ、けいさんのblogを発見し参考になっています。

    ここで質問なのですが、日本の選挙制度と選挙システムの関係性はわかりましたが、現在の日本の選挙制度が抱えている問題点またはその解決法があると思ったら意見が欲しいです。

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  2. コメントありがとう御座います.

    日本の選挙制度の問題点と解決策ですか.

    よく言われているのは1票の格差ですかね.選挙区ごとに有権者数が違うので,一人の持つ票の重みが違ってしまってます.
    票の「平等」原則からズレているという指摘はよく聞きます.
    参考http://www.ippyo.org/

    参議院選挙では,高裁レベルで違憲判決がでており,参議院議長が改革案を提示したりしてます.
    参考http://mainichi.jp/select/seiji/news/20101222k0000e010046000c.html

    もう一点思いつくのは,投票の仕方ですかね.日本の場合,投票用紙に候補者の名前を自分で書く仕組みが取られてます.こういう自署式は,世界でも珍しいらしいですが,書き間違いとか疑問票や無効票に繋がってしまいます.
    さらに,自署式だと,縦か横どちらで書き始めたかとか,大体何画だったかとかで,周りの人にバレてしまう可能性もあるために,「秘密」投票じゃないという批判もあります.
    ◯をつけるとかにすれば,こういうことはないと思います.

    思いつくままに書いたんで,お役に立てているか分かりませんが,以上です.

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  3. ご回答ありがとうございました。
    参考になりました。

    また、blogを拝見
    していきたいと
    思っています。

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